第1回政府交渉(2016.3.9 於:参議院議員会館)概要報告

第1回政府交渉(2016.3.9 於:参議院議員会館)概要報告
(文責 事務局 宍戸俊則)

 本会からの要望・質問の趣旨は要約すると以下の5点になる。

1 自主避難者(区域外避難者)に対する支援打ち切りをやめて、避難者の住居に関する施策を、「子ども・被災者支援法」の規定に沿って、日本政府の責任で実施し、避難者の意に沿わない転居や帰還を強制しない事。
2 原発事故を発生させたこと、放射性物質を広域に拡散させたことなどについて、政府に責任がある人災であることを認める事。
3 事故原発の現在の状況、原発事故による避難者の人数をはじめとする実態の把握を日本政府の責任で行い、情報を公開する事。
4 原発事故の全体像と収束の見通しと、拡散した放射性物質や除染廃棄物の処理に関する方法と終結の見通しを、可能な限り具体的に回答する事。
5 回答に際して、「様々な」や「適切な」などのあいまいな表現ではなく、具体的な数字や方法を過去に政府や省庁が公表した資料や答弁に基づいて、ごまかしたりはぐらかしたりしない事。

 本会からの要望と質問に対する回答の趣旨は、以下の通り

1 自主避難者に対する住宅支援の終了は、災害救助法に関するものなので、決定するのは国家政府ではなく都道府県である。政府が支援打ち切りについて、福島県庁について指示したことはない。「子ども・被災者支援法」の基本方針の改定は法に定められた規定に沿って実施したもので、その際に様々な方法で意見を聞き取り、一部は改定に反映させた。

2 原発事故が人災であったかどうかは、事故原因が判明していないので、何とも言えない。政府の責任についても、事故原因が判明していないので、答えることができない。

3 政府としては「避難」を定義していないので、避難者の実態把握はしていない。行う施策の対象者に関してそれぞれ把握して、施策を実施している。「避難」が何か、というのは、個人の内面にかかわる問題だ。網羅的な調査を行うのは非常に困難なので、全体像の把握はしていない。基本としては、避難して、避難元に戻りたい気持ちがあり、まだ定住場所が決まっていない人たちが避難者だと考えている。

4 原発事故の全体像の把握は、事業者の東京電力が出した資料に基づき試算したことがあるが、誤差の範囲が非常に大きいことが分かったので、新しい知見が出ても事故の全体像や放出した放射性物質の再試算は実施しない。

5 除染廃棄物の処理に関しては、家庭の敷地内にあるものも含めて中間貯蔵施設に運び込む計画だが、日程的な話は難しい。

6 回答に関しては、役所の縦割りの弊害もあって、要望に応えきることは困難。「様々な」や「適切に」などの言葉は、用いざるを得ない。

回答に対する本会と協力者からの再質問、追究

1 自主避難者の住宅支援打ち切りに関しては、福島県庁と日本政府の間で意見交換が何度も行われており、その時の記録を公開してほしい。「子ども・被災者支援法」基本方針の改定に関しては、第一に立法時の精神に反したものになっている。第二に、「意見を広く聞いた」と言っても、対象も頻度も少なすぎて、本気さが感じられない。避難者の人数の数え方に関して、政府が各都道府県に指示を出してさえいないので、出てきた数字も信頼できない。避難者に対する住宅支援について、災害救助法を根拠にしてきたのは政府の政治的判断であり、原発事故に関しては「子ども・被災者支援法」に基づく別の枠組みを考えることも実施してほしい。

2 原発は国策で作られたものであり、たとえ事故の発生が津波によるものだとしても、避難指示の経緯、粗雑で時間がかかり過ぎの汚染計測、個別被災者への対応を県や自治体に丸投げする様にしていること、など「国民の命と安全を守る」という国家の存在意義に疑問を抱かれるほど、日本政府は原発事故に対する責任から逃げ回っているように見える。

3 「避難者の把握は非常に困難」であるからこそ、県や自治体では把握が困難なので、日本政府の国家としての責任を果たしてほしい。また、参加者の側から指摘されるまで「政府は『避難者』を定義しない」という閣議決定文書の存在に触れないなど、事前に質問を送付された項目に対する回答の準備が不誠実である。「避難者」の全体像の把握もしないままで避難者の存在を消すようにする動きはやめてほしい。

4 原発事故の全体像の解明を、東京電力任せにして日本政府が実施しない理由がわからない。どの核種がどれだけ、どのような形で放出されたのか推計しないと、被曝量の推計もできない。政府は、初期被曝の推計を実施していない。子どもの甲状腺スクリーニング検査でさえも、計測にふさわしい状況が確保できているかどうかわからない環境で、1080人検査した時点で、打ち切るよう指示した。初期被曝も、小児甲状腺被曝も、計測していないのでわからない。回答は、時代遅れで反証が多数出ている「100mSv閾値説」に依拠した説に沿ったものだったので、最新の科学的知見にも反しているし、日本政府が話の引き合いに出すICRPが正しいとしている「しきい値なし直線仮説」にさえ反している。
 事故原発から放出された放射性物質の種類と量がわからない状態で、日本政府が依拠しているICRPの勧告さえも無視する非科学的な立場を取って、避難指示を解除する、というのは、国民の命と安全を守るという政府の義務を放棄した、国家政府としてあり得ない措置と言わざるを得ない。

5 「除染」に関して、質問書には、時間と数量の具体的数字を入れて答えるように要求したのだが、具体的な数字は回答に含まれない、不誠実な態度だ。各家庭の敷地内に保管したり埋設したりした除染廃棄物まで中間貯蔵施設に運び込むという回答は、廃棄物の全体量と実際の作業量とを考えた場合、空論、空手形にしか思えない。

6 回答があいまいになっている理由を、官僚制度の問題の為と政府側は主張しているが、実際には、政策として決めた「集中復興期間」から「復興創生期間」へと時間が経過したことによる変化だ。原発事故の実態、住民の被曝の状況、避難者の生活状況、除染の進捗状況、除染廃棄物管理の進捗状況などを考えると、これまでの5年間から殆ど改善された点はないのに、政策の変更に合わせて状況が改善されたかのようにごまかしているだけである。

まとめ

回答は、根拠とすべき文書を政府側が持っているのにごまかしたり、責任を県や自治体になすりつけたり、表現を抽象的にしたりするなど、不誠実な態度が目立った。
特に、本会の現在の活動の重要目標である自主避難者の住宅支援打ち切りについて、政府と県庁のやり取り等、内容決定の過程を隠そうとしていることが分かった。
交渉の最後に、今後とも交渉を繰り返していく事を確認した。
今後、「避難の権利」に基づく住宅支援策の継続・拡充や、具体的な回答を引き出せるように取り組んでいく事を、交渉を通して実現していく。